体外診断用医薬品は「毒物及び劇物取締法」の対象から外れています。
一方で、標準品単体等の研究用試薬として流通させているもの(体外診断用医薬品に該当しないもの)については、毒物または劇物に該当する場合には「毒物及び劇物取締法」の規制を受けることになります。
今般、2023年5月26日付けで、 「毒物及び劇物指定令の一部を改正する政令(令和5年政令第193号)」が公布されました。
今回の改正では、
- 新たに劇物に指定(1物質)
- 劇物からの除外濃度を変更(1物質)
- 劇物から除外(1物質)
等の、全部で3物質について変更されました。
今回の改正について詳しく調べましたので、備忘録がてらまとめてみたいと思います。
本ページでは、例のごとく大人の事情でCAS登録番号(CAS RN®)は掲載していません。
※「CAS RN」はAmerican Chemical Societyの商標又は登録商標です。
ライセンスがないと掲載できないのです(小声)
該当する物質のCAS登録番号は、厚生労働省通知(令和5年5月26日 薬生発0526第1号)に「参考CAS No.」として記載がありますのでご確認ください。
「公的な文書」に掲載する場合はライセンス不要ですねー。うらやましい
なお、政令改正前に実施されていたパブコメの結果は、e-Govパブリック・コメントに掲載されています。ご興味のある方は合わせてご確認ください。
新たに劇物に指定 3-アミノプロパン-1-オール
まずは、新たに劇物に指定される物質からです。
今回の改正で、3-アミノプロパン-1-オール及びその製剤が劇物に指定されました。
法令名(毒物及び劇物取締法)
3-アミノプロパン-1-オール
別名
3-アミノ-1-プロパノール、プロパノールアミン
製剤については、1%を超えるもののみが劇物に該当し、
1%以下の濃度を含有する製剤については、毒劇対象外となります。
これまでは「4%を超える1-アミノプロパン-2-オール」が劇物に指定されていましたが、
「1%を超える3-アミノプロパン-1-オール」が新たに劇物に追加指定されたようですね。
施行日は、2023年6月1日になります。
3-アミノプロパン-1-オールの劇物指定については一部の規定で経過措置期間が定められています。
施行日時点で製造・輸入・販売実態がある場合には、経過措置期間中は、法第3条、第7条、第9条の規定は適用されません。
経過措置期間が終わってから(2023年9月1日から)適用されますので、それまでに、
- 業登録を取得していない場合には、
- 業登録を取得(法第3条)
- 毒物劇物取扱責任者の設置、届出(法第7条)
- 業登録を既に取得している場合には、
- 取扱品目の変更の登録(法第9条)
を済ませておく必要があります。
図に起こすとこんな感じです↓↓
また、施行日時点で現に存する製品(メーカー在庫、流通在庫、社内在庫)については、経過措置期間中は、法第12条第1項、第22条第5項で準用する第12条第1項、第12条第2項の規定は適用されません。
経過措置期間終了後から(2023年9月1日から)適用されますので、それまでに、
- 「医薬用外劇物」の表示(法第12条第1項、第22条第5項で準用する第12条第1項)
- 「劇物の名称」「劇物の成分、含量」等の表示(法第12条第2項)
を容器と被包に施さなくてはなりません。
この経過措置規定は、施行日時点で現に存する製品(メーカー在庫、流通在庫、社内在庫)のみが対象であり、
経過措置期間中に新たに製造等されたものについては、経過措置は適用されません。
なお、経過措置規定で定められたルールは、
- 業登録を取得(法第3条)
- 毒物劇物取扱責任者の設置(法第7条)
- 取扱品目の変更の登録(法第9条)
- 容器に「医薬用外劇物」を表示(法第12条第1項、第22条第5項で準用する第12条第1項)
- 容器に「劇物の名称」「劇物の成分、含量」等を表示(法第12条第2項)
上記のみです。
上記以外の条項については経過措置規定はなく、施行日の2023年6月1日から適用されますのでご注意ください。
<経過措置がない例(2023年6月1日から適用されます)>
- 貯蔵や陳列をする場所に「医薬用外劇物」を表示(法第12条第3項、第22条第5項で準用する第12条第3項)
- 劇物の譲渡手続(法第14条)
- 18歳未満には譲渡不可(法第15条)
- 廃棄方法(法第15条の2)
- 運搬等についての技術上の基準(法第16条)
劇物からの除外濃度を変更 2-イソブトキシエタノール
2つ目は、2-イソブトキシエタノールです。
2-イソブトキシエタノールは、2020年7月1日の改正で、10%を超えるものが劇物として指定されました。
IUPAC名は「エチレングリコールモノイソブチルエーテル」が正しいですが、昔から慣用的に「2-イソブトキシエタノール」と呼ばれており、2020年の改正でも慣用的な名称が法令に載りました。
法令名(毒物及び劇物取締法)
2-イソブトキシエタノール
別名
イソブチルグリコール、エチレングリコールモノイソブチルエーテル
これまでは、2-イソブトキシエタノールの含有量が10%以下の製剤については劇物から除外されていましたが、今回の改正で劇物から除外される範囲が広がり、含有量15%以下の製剤が劇物から除外されることになります。
劇物の範囲が狭くなった感じですね。
施行日は、2023年5月25日になります。
2-イソブトキシエタノールの含有量が10%を超える製剤については、もともと劇物に指定されていますので既に「医薬用外劇物」の表示がされていると思います。
このうち、10%を超えていて15%以下(10%< x ≦15%)の含有品は改正によって劇物から除外されますので、「医薬用外劇物」の表示を消さなくてはなりません。
この表示の切り替えについては、特に経過措置等が定められていません。なぜでしょうか?
表示に関する法律の条文を見てみましょう。
毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物の容器及び被包に、「医薬用外」の文字及び毒物については赤地に白色をもつて「毒物」の文字、劇物については白地に赤色をもつて「劇物」の文字を表示しなければならない。
毒物及び劇物取締法 第12条第1項
原文は 総務省 e-gov法令検索 でご確認いただけます。
つまり、
- 劇物には「医薬用外劇物」と表示しなさい
- 毒物には「医薬用外毒物」と表示しなさい
という風に、該当する場合の表示義務が定められています。
裏を返せば、該当しない場合の非表示義務はありません。
だから経過措置期間が定められていないのです。
とはいえ、だからといって、
漫然と毒劇物表示をしたままにしておくのもよろしくありません。
毒劇物に該当しないものに対して毒劇物の表示がされていると、購入者(使用者)側の混乱を引き起こす可能性もありますし、誤認させるような表示と受けとられてしまう可能性もあるかもしれません。
これらを防ぐためにも毒劇物の対象から外れた場合には、可及的速やかな毒劇物表示の削除が推奨されます。
劇物から除外 四酸化二アンチモン
最後、3つ目は、劇物に指定されていた物質です。
法令名(毒物及び劇物取締法)
四酸化二アンチモン
四酸化二アンチモンは、これまで「アンチモン及びその化合物」として包括的に劇物に指定されていました。
今回の改正で劇物から指定が解除され、一般的な物質と同じように取り扱えるようになります。
施行日は、公布日の2023年5月25日になります。
この物質はもともと劇物に指定されていましたので、既に「医薬用外劇物」の表示がされていると思います。
今回の改正によって劇物ではなくなるので 「医薬用外劇物」の表示を消す必要があります。
四酸化二アンチモンの劇物除外についても、経過措置等は定められていませんが、その理由は上の3-イソブトキシエタノールと同様ですね。
使用者側の混乱を引き起こさないためにも、可及的速やかな毒劇物表示の削除が推奨されます。
まとめ
以上、2023年5月に改正される予定の毒物劇物についてでした。
今回の改正では、全部で3つの物質の劇物区分が変更されています。
- 新たに劇物に指定(1物質)
- 劇物からの除外濃度を変更(1物質)
- 劇物から除外(1物質)
経過措置期間がいつまでなのか、経過措置で免除になる規定・免除にならない規定等
注意することはたくさんあります。
法令遵守に努めたいと思います。
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